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2022.01.31
「変わらない人間のニーズを掴め」━楠木建が語るデジタルマネー時代に必要な競争戦略とは?

連載「金融・決済サービスをシームレスに」の3回目に登場するのは、競争戦略論の第一人者である一橋ビジネススクール教授の楠木建。

デジタルマネー時代が到来し、今以上にDXが加速していく中で、企業が生き残るためにどんな視点を持ち、どのような戦略を構築していくべきなのかを語ってもらった。

一橋ビジネススクール教授の楠木建

「DXに成功はない」という言葉の真意

企業は、どうすれば生き残れるのか? このシンプルな問いに対し、楠木建は即座に「長期利益を獲得すること」と答えた。

「これは、1000年前も今後もきっと変わりません。『何でもあり』で短期的に利益を出すことは可能でしょうが、生き残りは難しい。長期的に利益を獲得し続けようとすれば、社会に対する責任が発生しますので、自然とSDGsの達成やESGへの配慮も必要になります」

社会貢献ありきではなく、社会的に価値がある取り組みだから利益を得ることができるわけだ。そのために立てるのが戦略。他社と同じでは利益が生み出せないため、戦略によって「違いをつくる」ことが重要だという。つまり、「どうしたら儲かるのか」をシンプルに追求することが生き残りにつながるといえる。

「ビジネスの良さは、このシンプルさが勝利条件になっているところです。その強みを積極的に戦略構築に生かすべきですし、逆に言えばそれ以外は余計な話だと考えるべきです」

そう話す楠木は、DXについても「どうしたら儲かるのか」というシンプルなスタンスで考えるべきと説く。

「DXはあくまでも戦略の手段でしかありませんので、『DXの成功』というのはないと思うんです。目指すのはあくまで『商売の成功』。ただし、長期利益を獲得するための手段としてDXが非常に有用であることは間違いありません」

少なくとも、アナログな業務をデジタル化して効率性を向上させる取り組みは「迷いなくやるべき」だと楠木は話す。

「なぜかというと、今後それらは誰もが利用する『非競争領域』になっていくからです。30年前は、インターネットを使っている会社が雑誌で特集されましたが、今は当たり前のことですよね。ただし、これはデジタルトランスフォーメーション(DX)ではなく、アナログ業務がデジタルに代替しただけに過ぎません。他社との『違いをつくる』には、商売の儲け方をデジタルで変えていかなければならないでしょう」

「面倒くさいのは嫌だ」を解決する「日陰の商売」は強い

では、商売の儲け方はどう見つけるか。「ニーズの変化」はよく使われる言葉だが、楠木は明確にこれを否定する。

「人間のニーズは、ずっと変わっていないと思うんです。紀元前のローマ帝国の奴隷を現代のスポーツジムに連れていって、『この人たちは自分でお金を払って重いものを上げ下げしたり走ったりしている』と伝えたら確かに驚くでしょう。でも、『あなたの時代と違って運動しないと太っちゃうから痩せたくてやっている』と伝えたら、おそらく納得するのではないでしょうか」

食や社会インフラは変わっても、美や健康を追求する姿勢は変わらないということだ。「人間の本性に根ざした商売が強い」と話す楠木が、非常に太い需要だと指摘するのは「面倒くさいことは嫌だ」という本性。その本性を刺激するビッグマーケットとして、楠木はデジタルマネー市場に期待を寄せる。

「私自身、交通系電子マネーを日常的に使っている1人として思うのは、キャッシュを持たず、紛失する心配もなく電車にスムーズに乗れることの快適さです。このように、面倒くささを解消するのは非常に高い価値を生んでいると思います」

一方で、同じデジタルマネーの範疇であるはずの他の電子マネーやキャッシュレス決済が、すべて使われているかといえばそうではない。逆に、競争が激化しすぎて採算のとれていないサービスも出てきている。多くの決済事業者が参入しているのだから当然だが、楠木はこれを19世紀の米国で起こったゴールドラッシュになぞらえる。

「ゴールドラッシュで最も儲けたのは、金鉱を掘っていた人ではなく、破れにくいジーンズを開発して売ったリーバイスです。今でこそ有名な話ですが、当時は目立たない商売だったはずです。僕はこういった日陰の商売にこそ真の“儲け筋”があると思っています」

デジタルマネー時代に必要なもの

金鉱を掘ることは当時のトレンド、日なたのビジネスだった。それが新たな問題――ズボンがすりきれる――を生み、日陰の部分で問題解決に取り組んだリーバイスが、最終的には長期利益を獲得した。楠木は、同じ構図がデジタルマネーの世界でも起こると予測するが、まさに日陰の部分で問題解決のためのデジタルマネープラットフォーム「doreca」を構築したのがBIPROGYだ。本事業を立ち上げた戦略事業推進第二本部 グループマネージャーの北村哲史は、次のように説明する。

「日本はキャッシュレス化を進めていますが、一方で1,000以上の決済サービスが乱立しています。選択肢が多いのは良いことですが、利便性は逆に低下しているのは問題だと思いました。ならば、テクノロジー企業として、キャッシュレスをユーザーにとってシームレスにフリクションレスにするお手伝いをしたいと考えたのです」

「doreca」は大きく2つの機能を持つ。1つは、給与やバイト代(※)、保険金、経費精算などをオンラインで受け取れる「ダイレクトオンラインチャージ」。企業や政府からの個人への振込がデジタルマネーでできる機能だ。受け取る個人にとっては、ダイレクトでキャッシュレスサービスを利用できるため、わざわざ現金を引き出すという「面倒くささ」が解消できる。支払側にとっても、資金取引コストが大幅に減らせるのは大きなメリットだろう。

※現在の労働基準法では賃金は原則現金のみでの支払いとされている。BIPROGYも、賃金での「doreca」の活用は、デジタルマネー払い解禁の法改正後を見込んでいる。

対話をする楠木建とBIPROGY 戦略事業推進第二本部 グループマネージャーの北村哲史

もう1つは異なるデジタルマネーの残高(バリュー)を自由に交換(移行)できる「デジタルマネーのバリュー交換」。複数の決済サービスを利用していると、それぞれ少しずつ残高が滞留し、きれいに使いきれないという「面倒くささ」が発生するが、サービス間で残高連携することで解消し、より効率的な使い方が可能となる。

「加えて、デジタルマネーの動きが可視化されることに大きな意味があると考えています。例えば給付金をたどれば政策のインパクト評価にも活用できます。お金に意味をもたせられることは、さまざまなイノベーションの源泉になると確信しています」(BIPROGY・北村)

価値交換基盤「doreca」

乱立する決済サービスのハブとなり、決済の「面倒くささ」を解消することでキャッシュレス推進の起爆剤となるポテンシャルを持つ「doreca」。楠木も、その可能性を感じているようだ。

「『doreca』は、利用者にアプリのダウンロードを強いることもなく、データ取得による利用者の囲い込みをしないところに“筋の良さ”を感じます。すでに複数のステークホルダーと話が進んでいるとのことですが、プレイヤーが増えるほどステークホルダーにとって価値が増していくサービスだと思いますので、今後にぜひ期待したいですね」

text by 高橋秀和/ photograph by 吉澤健太 / edit by 松浦朋希
(Forbes JAPAN BrandVoice 2021年11月29日掲載記事より転載) 

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※dorecaは、BIPROGY株式会社の登録商標です。 ※記載の会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。 ※掲載のニュースリリース情報は、発表日現在のものです。
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